最近は、年単位での
古気候復元が可能です。
※中塚武/気候適応の日本史 人新世をのりこえる視点(p92-93)
吉川弘文館 歴史文化ライブラリー544/2022.3.1

上図は、古気候学がご専門の、中塚武先生(理学博士)の著書からです。
見開きページをスキャンしたので、見難いとは思いますが、ご了承下さい。
中部日本の森林で、樹木年輪を調査して得られた
過去2600年の復元図です。
樹木年輪から、古気候を復元する研究は、海外でも行われて来ました。
ところがですね。
日本の学者が、年単位の気温の変化に留まらず、年単位の降水量の変化まで復元する技法を開発したんです(!)
正確には、植物が最も成長する、
夏場の気温&降水量の変化ですけれど。
※年輪の繊維質(セルロース)を構成する成分(酸素や水素)の同位体比から算出「NIPPON, CHA-CHA-CHA!」と踊り出したい気分を抑えて、記事本題。
以下は、冒頭のグラフの右サイドです(↓) ザッと流れを説明しますね。
※中塚武/気候適応の日本史 人新世をのりこえる視点(p92)
吉川弘文館 歴史文化ライブラリー544/2022.3.1800~1300年頃は中世温暖期です。900~1100年頃は特に暖かかった模様。
1100年前後だと、東北は平泉政権の時代。半ば独立国として存在しました。
北海道は擦文時代です。本州からの入植者も増え、
園耕社会が成立します。
北海道で農耕が行われた擦文時代:中世温暖期 (2023/07/22) http://fuwameg.blog.fc2.com/blog-entry-2334.htmlですが、以降は下がり始めますよね?
小氷期に突入したんです。
北海道は、狩猟採集メインの、アイヌ文化の時代を迎えました。
グラフをよく見ると、1200年前後にも一時的に下がっていますが。
この時期、源平合戦が行われましたね。奥州藤原氏も滅亡します。
これにより、本土日本が実質的に統一されました(日本の中世)。
以降は、鎌倉 ⇒ 室町 ⇒ 安土桃山と、戦乱の世が続きます。
1600年、関ヶ原で徳川軍が勝利すると、すぐに江戸時代。
1603年に幕府を開きました。日本の近世が始まるんですね。
……が。再度、グラフでご確認下さい。そこから、“寒さの底”を迎えます。
江戸時代は、飢饉が頻発しましたよね。特に、“三大飢饉”は有名ですけれど。
享保・天明・天保。うち、享保の飢饉(1732)は蝗害(イナゴ・ウンカ)。
西日本で大凶作となりました。
天明・天保は冷害で、東北で甚大な被害。
※下図の最上部でご確認下さい(↓)
※中塚武/気候適応の日本史 人新世をのりこえる視点(p150)
吉川弘文館 歴史文化ライブラリー544/2022.3.1天明の飢饉(1782-1787)
各藩の記録によれば、天明の飢饉による東北北部の餓死者数は、弘前藩で10万2000人、八戸藩で3万105人、盛岡藩で4万850人とあり、仙台藩では餓死と疫病死を合わせて20万人以上であった。
[p235]天保の飢饉(1833-1839)
農作物の不作が連続して発生し、作柄をみると全国平均で、1833年が52.5%、1835年は57.2%、1836年が42.4%とおよそ半分に減少しており、奥州ではそれぞれ35%、47.2%、28%と大凶作となった。冷害は1838年まで続き、餓死者が大量に発生した。弘前藩では餓死(7万4860人)と疫病死(2万6000人)により、藩内人口の半分が死亡した。
[p242]※田家康/気候文明史 世界を変えた8万年の攻防(p235,242)
日本経済新聞出版社/2010.2.19
[漢数字⇒アラビア数字]
……天明・天保と、北海道に近い東北での様子を、
気象予報士の田家康先生の著書からご紹介しましたが。
上記の通り、
冷害の影響は、寒い北日本で、より甚大でした。
そんな時代に、狩猟採集民のアイヌが、北海道で農耕……???
否、チャレンジ精神は否定しません。事実、初歩的な園耕は行っていました。
もっと、レベルの高いことをしてみたかったのかも。和人のようになりたくて。
アイヌ女性の畑仕事:園耕のお話 (2022/10/29) http://fuwameg.blog.fc2.com/blog-entry-2293.html アイヌ時代は小氷期:松前藩の禁農モデルについて (2023/08/19) http://fuwameg.blog.fc2.com/blog-entry-2336.html2023/9/3 不破 慈(曾祖母がアイヌ)
園耕民(狩猟+農耕)の強みは、いつでも農耕を切り捨てられる点にあります。
時々の気候条件に合わせて、
狩猟採集オンリーの生活に、後戻りが可能なんです。
完全な農耕社会に移行すると、それが出来ません。餓死者が増える理由の一つです。
名古屋大学大学院環境学研究科 地球環境科学専攻大気水圏科学系
古気候学グループのサイト ⇒
https://pcl.has.env.nagoya-u.ac.jp