女性性を受け入れ、人生をやり直したい。
願う事はそれだけ。ずっと自分を『俺』って呼んでた。
男の人より漢(おとこ)らしかった。腕力では敵わずとも、気構えでは負ける気がしなかった。
でも、身体は段々とおかしくなっていった。それもその筈、私は女性としての肉体を心底憎んでた。胸を抉ってやりたかった。腹を裂いて、子宮と卵巣を引き摺りだしてやりたかった。業火のような殺意を自分に向け続けた。子供の頃からずっとずっと。
母は、私から女性としての権利を全て奪った。にも関わらず、世間から「良いお嬢さんね」と褒められる行いを強要した。私は奴隷だった。母は絶対だったのだ。
人より大きな胸の私に、ブラジャーは与えて貰えなかった。実家を出て、一人暮らしを始めて、やっと買う事が出来た。25歳になる一ヶ月前の事。母が恐くて買えなかった。幼い頃から、繰り返し繰り返し、鬼の様な顔で私に言い含めた。「あんなチャラチャラした物!」
ジーパンも履いた事が無かった。ニットのセーターも。幼い頃から、母が私に着る事を許してくれたのは、実際以上に太って見えるブカブカの服だけ。母の前に、ニットとジーパンという出で立ちで現れた時、こう睨まれた。「お前、厭らしい格好、すんなよな」。
一通り説明を終えると、ヒプノセラピー(催眠療法)の先生は仰った。
「虐待だね」
そして先生は、再度私に尋ねられた。
「お母さんから精神的に分離しなきゃ。でもそれには慈ちゃんの強い決意が必要だよ。頑張れる?」
「はい! 絶対に女に戻ります! 揺らぎません!」
先生の言葉に導かれ、私は心の奥底へと旅に出る。
生まれたばかりの私がいる。抱き上げる。語り掛ける。
「貴女は女の子よ。女の子なの。そのままで良いの。私が守ってあげる」
身体が温まってくる。指先から爪先まで、血が廻るのを感じる。
目を開くと、一度見た筈の室内がさっきとは違って見えた。
輪郭がはっきりしている。色彩も鮮やか。
「???」
目に映る世界も、全身の感覚もまるで違う。生まれ変わったの? 新しい私?
「慈ちゃんはとても強い心を持っているから」先生は仰った。
生まれ変わるには、『決断』が必要なのだと。私が決断したから変われたのだと。
もう自分を『俺』なんて呼ばない。これからは『私(あたし)』。
先生と約束した。
2012/04/25 慈
前日に受けたセラピーの模様です。