1980年代、
平取町二風谷で集められた、
現代アイヌのDNAでした。
数年前、以下の報道を目にしたと思います。
長くなりますが、読売さんと産経さんから。
※ニュースをご存知の方は、【続き】からどうぞ。◆読売新聞よりアイヌ民族のDNA、関東よりも沖縄の人と近い 北海道のアイヌ民族は地理的に近い関東よりも、沖縄の人たちと遺伝的に近いことがDNA解析から証明されたとする研究成果を、東京大学や
国立遺伝学研究所などで作る「日本列島人類集団遺伝学コンソーシアム」がまとめた。
北海道と沖縄では、日本列島に古くから住んでいた縄文人と渡来の弥生人の混血が一部にとどまり、縄文系の人々が残ったとする「二重構造説」を裏付ける成果という。1日付の日本人類遺伝学会誌(電子版)に発表する。
研究チームはアイヌ民族36人と、3世代以上続く沖縄出身者35人の遺伝情報を詳細に調べた。DNAのわずか1文字(1塩基)の違い「SNP(スニップ)」を約60万か所にわたって分析。すでにデータとしてそろっている関東に住む243人と比較し、アイヌ民族は沖縄出身者により近いことを確認した。こうした傾向はこれまでも示されていたが、データが少なく結論は出ていなかった。
(2012年11月1日10時18分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20121101-OYT1T00022.htm?from=ylist◆産経新聞よりアイヌと琉球は縄文型 日本人の遺伝系統、ゲノム解析で裏付け2012.11.1 08:05
日本人の遺伝的な系統はアイヌ(北海道)と琉球(沖縄県)が縄文人タイプで、本州・四国・九州は縄文人と弥生系渡来人との混血とみられることが、東京大などのゲノム(全遺伝情報)解析で分かった。約100年前に提唱された「アイヌ沖縄同系説」を裏付ける成果で、1日付の日本人類遺伝学会誌電子版に論文が掲載された。
日本人の成り立ちについてドイツ人医師のベルツは明治44年、身体的特徴の共通性からアイヌと琉球は同系統と指摘。人類学者の埴原(はにはら)氏は平成3年に「二重構造説」を提唱し、本州などでは弥生時代以降に中国や朝鮮半島からの渡来人と先住民の縄文人が混血したが、アイヌや琉球は遠いため混血が少なく、縄文型の系統が残ったとした。
今回の結果はこれらの仮説を高い精度で裏付けるもので、日本人の起源を探る上で貴重な成果という。仮説はこれまでもミトコンドリアDNAの分析結果などで支持されてきたが、はっきりしていなかった。
研究チームはアイヌ系36人、琉球系35人のゲノムを解析し、DNAの個人差を示す60万個の一塩基多型(SNP)を調べ、本州・四国・九州の計243人や韓国人などと比較した。その結果、アイヌと琉球が遺伝的に最も近縁で、本州などは韓国と琉球の中間と判明。アイヌは個人差が大きく、北海道以北の別の民族との混血が起きたとみられることも分かった。
研究チームの
斎藤成也総合研究大学院大教授(遺伝学)らは縄文人の骨からDNAを採取して解析中で、斎藤教授は「分岐や混血の年代を推定して日本人の変遷を明らかにしたい」と話している。
http://sankei.jp.msn.com/science/news/121101/scn12110108070000-n1.htm
【続き】以下は、
国立科学博物館人類研究部長で、
医学博士の
篠田謙一先生の著書からです。
※漢数字をアラビア数字に、改行も加えてあります。(引用)
その後、
国立遺伝学研究所の
斎藤成也さんらの研究グループによって、理研グループの研究では表に出なかったアイヌ集団に関しても64万ヶ所のSNPの解析が行われています。その結果、解析したアイヌ集団の3分の1の個体に最近の本土日本人との混血の影響が見られること、本土日本以外の集団との混血の影響もあること、そして本土日本よりも琉球列島集団との類縁性が大きいことなどが示されています。
(中略)
ここで解析に用いられた
アイヌ集団のサンプルは後者の例で、
実際には1980年代に当時東京大学にいた
尾本惠市さんたちのグループによって
北海道の平取町二風谷で集められた、
非常に地域性の強いものです。したがって、この結果が
アイヌ民族全体に
敷衍できるものなのか、
解釈にあたっては
慎重さが求められます。集団のDNAデータを解釈する場合、そのサンプルがどのように集められたのか、対象集団を代表しているものなのかということに注意して結果を解釈する必要があります。
またこのアイヌの研究では、東アジアのさまざまな集団との比較のなかで、琉球列島や本土日本との近縁性が示されていますが、その分析には沿海州やサハリン、カムチャッカ半島といった北東アジアに住む先住民族が入っておらず、彼らとの近縁性を評価できていません。ミトコンドリアDNAで示されたハプログループYの存在を考えると、これらの集団も解析に入れて考察を進める必要があるように思えます。
(引用ここまで、篠田謙一著:DNAで語る日本人起源論 p147-148/岩波書店/2015.9)
※興味がある方は先へお進み下さい(↓)で、篠田先生ご自身も、
この平取の二風谷で集められたサンプルを基に、
ミトコンドリアDNAで研究なさってるんです。
(引用)
本土日本、アイヌ、琉球の
三集団のミトコンドリアDNA
ハプログループ頻度を比較すると、
それらは互いに異なっており、
とくにアイヌと琉球集団の間に
類似性は認められないことがわかります。北海道のアイヌ集団には、
本土や琉球集団にはないハプログループYが高頻度で存在しますが、これは
沿海州やシベリア、カムチャッカ半島の先住民など北アジアの集団に限局して見られる特異なハプログループです。
またアイヌで頻度の高いハプログループGもこれらの集団で高頻度に認められ、
アイヌ集団とこれらアジアの北方系集団との強い結びつきをうかがわせています。
一方、本土日本と琉球列島集団では、互いが持つハプログループの種類は共通していますが、その頻度には違いが見られ、ミトコンドリアDNAの分析は、後述する現代日本人の核DNAのSNPの研究結果を支持しています。
また琉球列島のハプログループ頻度は、地理的に近い台湾の先住民とは異なっており、両者の間の近縁性は認められないこともわかっています。
これらの事実は、前章でも指摘したように、単純な二重構造説では日本列島集団の遺伝的な多様性を説明できないことを示しています。

(引用終了、篠田謙一著:DNAで語る日本人起源論 p139-140/岩波書店/2015.9)
終わりに。
上のサムネイル画像をクリックして下さい。
厚い本をスキャンしたので傾いてしまいましたが。
表の左側に、「アイヌ民族 n=51」ってありますよね?
これは解析された個体数を示しています。
篠田謙一先生が解析したのは51個体、
斎藤成也先生が解析したのは36個体。 36 ÷ 51 = 0.70588235……
2016/06/19 不破 慈(ふわめぐみ)
※最終更新、7月30日(記事タイトルも修正)

平取の二風谷、最近も絡まれました。
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